マンションデータ偽装問題とシステム開発の類似性

横浜市の大型マンションが、基礎の杭が地盤に到達しておらず、傾いてしまった問題。

 

かつその建築の工程において、杭打ちのデータを偽装していたという問題。

 

さらにその後、セメント注入量や、他の建築においても類似の偽装が行われていた問題。

 

さらにそのマンションのデベロッパーや施工業者が、名だたる大企業であったという問題。


今も同マンション、あるいは類似の問題で苦しんでいらっしゃる方々の心痛を考えると、本当に罪深い問題だと感じます。

 

私はIT企業の社長ですが、この事件に感じますのは、組織とは、あるいは人間とは、「あっさりとこのような悪事をやってしまう」可能性のある、恐ろしい物であり、

 

仕事とは、これも一歩間違えると、このような不誠実な事を、集団でやってしまう可能性があるという事実から、目をそむけることは出来ない。という事です。

 

この「事件」がなぜ起きてしまったのか、その動機的原因について、様々な論客が持論を展開されていらっしゃいますが、

 

その中で三つ、気になる物が有ったので、ご紹介いたします。


その1)マンションの青田売り問題

新築マンションは通常、施工工事が完成する前に各部屋を売り出し、購入してもらう、いわゆる「青田売り」が行われる

・したがってマンションはマンションが完成する前に、売り上げが確定する

・そうなるとマンション施工中に発生した問題(例えば思ったより地盤が緩かった、など)をあとから追加費用を発生させ、対処し、それをマンション売価に上乗せすることが難しい

・マンション事業は通常5%程度の薄利で行わているので、利益の取り崩しも難しい


その2)設計と施工が同一

・日本の新築マンション建設の場合、設計業者と施工業者が同一である場合が多い

・したがって設計者が施工を、施工者が設計を、厳しい目で監視し合うような構造にならない


その3)1981年の新耐震基準

・1981年に建築基準法が改正され、同年以後に建てられる建物に関する耐震基準が大きく変更された(厳しくなった)

・ところがこの新耐震基準は、それ以前に建てられた建物については「おとがめなし」だった為、街には「緩い耐震基準の建物が溢れているのに、新しい建物は厳しい基準で建てなければならない」という状況になった

・かつその後1990年代に入り不況となって、建築業界の価格競争は激化した

・そういった背景によって、業界に「ごまかし」文化が生まれた

 

これら3点は、勿論許される話ではありませんが、経緯としてそれぞれにうなずける、動機的原因だと思います。

 

これらについて、

 

このブログのタイトルを「マンションデータ偽装問題とシステム開発の類似性」と記したように、

私がもう30年余り努めてまいりました、システム開発の業界と、悪い意味で類似しているのだなあという感想を、衝撃的に、持ちました。

 

大規模システム開発の世界では、有名な「動かないコンピューター」系の事例をひも解くまでもなく、よく「8割がたが失敗プロジェクトだ」というような言われ方をします。

 

プロジェクトの評価は、よく3点(品質/納期/コスト)であると言われます。

 

システム開発において、たとえ大規模な事故や、不具合などが、なかったとしても、

 

 ・予定の品質に達しなかったり、機能実装が不十分になってしまった
 ・予定の工期で終わらなかった
 ・予算をオーバーした

 

これらのどれかが該当すれば、そのシステム開発プロジェクトは「失敗」だと評価するとしたら、

 

システム開発の世界は、8割が失敗・・・と言われても、あながち外れてはいないだろうと、私は感じます(8割よりもっと多いかもしれないとも思います)

 

で、なぜ私は、マンションデータ偽装の問題に衝撃を感じたかと言うと


実は私は、今まで、なんとなく

 

 ・建築業界はシステム業界に比べ、はるかに失敗が少ない

 

と、考えていて

そしてその理由の根源は

 

 ・システム開発業界は、建築業界に比べて、「枯れていない」ので、見積制度が低いから

 

だと、考えていたのですね

 

でも、今回のマンションデータ偽装の問題の同期的原因が、本当に上記3点のようなものであるなら、私の認識はある意味、間違っていたと言っていい。

 

「なんだ。システム開発業界と建築業界は、本質的に変わりはないのか・・・」

 

と、極めて残念な感想をもってしまった。という事なのです。

 

特に「その1」の青田売り問題については、システム開発業界では「請負い問題」という事と置き換えられます。

私はずっと、IT業界では請負いを出来るだけ避けるべきだ(お客様にとっても)と考えていますし、似たような持論をお持ちの業界人は多くおります。

 

fixed price契約でプロジェクト進行すると、発注者も受注者も幸せになれない。

 この話に簡単な解決案や持論を提示するほど、私は悟れた何かを持ち合わせておりませんが

 

この罪深き問題に対し、むしろ我々システム開発業界人は、ちょっと不感症になるほど慢性的に「ごまかし」文化に浸っているのではないかと、一IT企業代表として、震えるほどの恐怖を感じました。

 

本当に組織とは、あるいは人間とは、集団となると「あっさりとこのような悪事をやってしまう」物であり、

仕事とは、一歩間違えると、このような不誠実に不感症になってしまう、可能性がある。

 

その事実から、私は、一企業の代表として、目をそむけるわけには、いかない。

 

私が「枯れている」と考えていた建築業界ですら、「基礎の杭のデーターをごまかす」といった文化に成りえるのですから、

 

いわんや私たちシステム開発業界の人間たちは、どのレベルから自分たちのコンプライアンスや基本動作、もっと言えばプライドを、考え直し、立ち向かっていかなければならないのか

 

このニュースに触れて私は、システム業界の深部のテーマを、自責的に強く感じています